名古屋高等裁判所 昭和26年(う)151号 判決
被告人高橋克己の弁護人の控訴趣意第一点の要旨は、原判決は、訴訟手続に重大な法令違反がある。原判決は、昭和二十五年五月八日附追起訴状記載の第一乃至第五の事実及び同月十九日附追起訴状第二の事実につき、訴因の変更がないのに、賍物故買罪を牙保罪と認定した違法がある。故買罪と牙保罪とは、基礎事実に変更はないが関係者の数、行為の類型も異り、防禦方法も異るので、訴因の変更なくしては、故買罪として起訴せられたものを牙保罪と認定することができないと謂うにある。
よつて案ずるに、原審が、訴因の変更なくして賍物故買罪として起訴せられたものを賍物牙保罪と認定したことは、所論の通りである。賍物故買又は牙保は、刑法第二百五十六条第二項に規定してある罪で、何れも、賍物の返還請求を困難にする取引行為で、被告人自身が買主となつたときが故買罪であり、被告人が自ら買わず、第三者に買わしめたのが牙保罪で、何れも取引においたことは、差異がない。故買罪と牙保罪とは、犯罪事実の微細な点においては、その構成要件が異つているが、賍物を流通においた点については異同がない。訴因とは、犯罪の構成要件に該当する事実と解すべきものであるが、公訴事実に或る訴因が包含せられていると見らるべき場合や犯罪の基本的構成要件に異同がなく、枝葉の点に差異があるのみで、同一法条の犯罪であることには変りがないときは、訴因の同一性を失わず、従つて、訴因の変更なくして、起訴状の公訴事実と異る事実を認定することができるものと解すべきである。かくの如く解しても、被告人の防禦に何等支障は生じない。賍物故買罪と言うも牙保罪と云うも、賍物を売買したことに変りがなく、その売買の買主が被告人であるか、被告人以外の者であるかに相異点があるだけで、構成要件は賍物であることを知りながら、売買行為を為したと見るべきで、そう見ると、訴因の変更なく賍物故買罪を牙保罪と認定するも違法でない。論旨は、理由がない。